大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(行ケ)78号 判決 1998年1月14日

神戸市兵庫区材木町3番1号

原告

株式会社三和

代表者代表取締役

福井文望

訴訟代理人弁理士

倉内義朗

広島県福山市鞆町後地26番地の122

被告

光栄金属工業株式会社

代表者代表取締役

早間榮作

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた判決

特許庁が、平成7年審判第2417号事件について、平成8年3月12日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「コンテナ連結装置」とする特許第1835240号発明(昭和59年10月20日原出願、平成元年11月17日分割出願、平成5年7月2日出願公告、平成6年4月11日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。

被告は、平成7年2月10日、原告を被請求人として、上記特許につき、その特許を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成7年審判第2417号事件として審理したうえ、平成8年3月12日、「特許第1835240号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年4月22日、原告に送達された。

2  本件発明の要旨

相対する位置に係合孔をそれぞれ有する上側コンテナと下側コンテナとを連結するコンテナ連結装置であって、このコンテナ連結装置は、コンテナの係合孔に嵌合可能な嵌合部を備え、この嵌合部を貫通した貫通孔が設けられた連結装置本体と、該連結装置本体の貫通孔に回動自在に軸支され、両端部が貫通孔の外側に突出された軸杆と、この軸杆の突出端部に該軸杆と一体的に回転するように連結され、コンテナの係合孔に対応した平面形状を有するとともに、互いに交差して設けられた上側係合部および下側係合部からなり、前記軸杆はバネ手段を介して下側係合部が下側コンテナの係合孔と係合する方向に付勢され、さらに、下側係合部は、下側コンテナの係合孔の孔縁にガイドされてバネ手段の付勢力に抗して没入方向に回転させる形状に形成され、上側係合部を上側コンテナの係合孔に係合した状態で下側係合部が下側コンテナの係合孔と交差する位置で押圧された際、下側係合部に作用する偶力によりバネ手段の付勢力に抗して下側係合部を回動させ、係合孔に完全に挿入するとバネ手段により係合孔と係合する位置に復帰するように構成したことを特徴とするコンテナ連結装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件発明は、特開昭47-30013号公報(審決甲第1号証、以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)及び実公昭46-35764号公報(審決甲第2号証、以下「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであって、同法123条1項1号の規定に該当するので、無効であるとした。

4  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件発明の要旨の認定(審決書2頁12行~3頁18行)、引用例1の記載事項の認定(同8頁5行~9頁5行)、本件発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定(同14頁3行~16頁1行)及び本件発明においてバネ他端の固着位置を本体内となした点が設計事項であるとの判断(同19頁12行~20頁8行)は認める。引用例2の記載事項の認定(同9頁6行~13頁13行)及び相違点に対する判断(同16頁2行~19頁11行)は争う。

審決は、相違点に対する判断において、引用例2に記載された技術事項に関する認定を誤った結果、本件発明が、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと誤って判断したものであるから、違法として取り消されなければならない。

(1)  引用例2に記載された技術事項の誤認

審決は、本件発明と引用例発明との相違点、すなわち、「上下コンテナを連結する際に、甲1号証記載の発明(注、引用例発明)において必要となる・・・作業員による手動操作を不要とするため、本件特許発明においては、『(上側係合部および下側係合部を両端部に連結し本体の貫通孔に回動自在に軸支された)軸杆はバネ手段を介して下側係合部が下側コンテナの係合孔と係合する方向に付勢され、さらに、下側係合部は、下側コンテナの係合孔の孔縁にガイドされてバネ手段の付勢力に抗して没入方向に回転させる形状に形成され、上側係合部を上側コンテナの係合孔に係合した状態で下側係合部が下側コンテナの係合孔と交差する位置で押圧された際、下側係合部に作用する偶力によりバネ手段の付勢力に抗して下側係合部を回動させ、係合孔に完全に挿入するとバネ手段により係合孔と係合する位置に復帰するように構成した』点。」(審決書14頁20行~16頁1行)の判断に当たって、「甲第2号証(注、引用例2)には、・・・自動式コンテナ連結装置の具体例として、『回動自在な錠16の頭部17が、コンテナ1の孔部3と係合する方向に、錠16の頭部17下端軸部に相対回転不能に一体的に取り付けられた操作杆18の一端22に取り付けたバネ23により付勢されると共に、頭部17はコンテナ1の孔部3の周縁にガイドされてバネ23の付勢力に抗して没入方向に回転させるために截頭ピラミッド状に形成され、頭部17が上方から載置されるコンテナ1の孔部3と交差する位置で押圧された際、頭部17に作用する偶力によりバネ23の付勢力に抗して頭部17を回動させ、孔部3に完全に挿入するとバネ23により孔部3と係合する位置に復帰するように構成した自動コンテナ結合装置』が記載されている。」(同16頁12行~17頁8行)と認定したが、誤りである。

すなわち、引用例2の記載中、上記認定部分に相当するのは、「結合装置が自動式の場合には・・・錠16の頭部17は操作杆18の一端22に取り付けたバネのような弾支機構23によつて常に鎖錠状態の位置に偏位させてある。コンテナ1がフレーム4上に乗ると隅金具2が頭部17に当り頭部17が截頭ピラミツド状をしているので隅金具2の孔部3の周辺が頭部17の周辺に当つて頭部17をバネ23の力に抗して回転させ頭部17の向きと孔部3の向きが一致すると、頭部17は孔部3中に入りバネ23の力でもとの鎖錠位置にひきもどされ、頭部17の底面19が孔部3の周壁20と係合噛み合つて鎖錠状態となる。」(甲第5号証4欄8~19行)との記載である。

しかし、頭部17が鎖錠状態の位置に偏位されているときに、コンテナの隅金具2の孔部3が頭部17に当たった場合、隅金具の孔部の周辺と頭部17の稜線とが接触することから、コンテナ重量は、対向する2本の稜線を含む垂直面内において、稜線に沿う水平分力と、稜線に直交する垂直分力に分解される。ここで、頭部17が截頭ピラミッド状に形成されていることから、対向する2本の稜線にそれぞれ作用する垂直分力は大きさが等しく、かつ該2本の稜線を含む同一の垂直面内に位置しているので、各稜線に作用する垂直分力間の距離は0となり、偶力のモーメントは発生しない。したがって、審決が認定したように「頭部17に作用する偶力によりバネ23の付勢力に抗して頭部17を回動させ」るということは不可能である。

この点につき審決は、「頭部17がコンテナ1の孔部3と交差する位置で押圧されるならば、該頭部17はその稜線・・・でコンテナ1の孔部3(原文の「2」は「3」の誤記である。)の長辺に接して、該長辺に対して該孔部を押し広げようとする力を及ぼし、この結果、前記押し広げようとする力の反作用として孔部長辺から該長辺に垂直な方向の反力が上記接点を着力点として作用することは明らかである。そして、該反力は前記長辺に垂直な方向の力であって、截頭ピラミッドの下面を形成する矩形の対角線方向の力ではない・・・から、前記反力は頭部中心に対し偶力を発生させる力であることも明らかである。」(審決書10頁11行~11頁9行)と認定している。

しかし、コンテナ重量は鉛直方向に作用し、かつ「頭部17はその稜線でコンテナ1の孔部3の長辺に接する」ことから、「長辺に対して該孔部を押し広げようとする力」は稜線と孔部長辺(周辺)との二つの接触点を含む垂直面内で作用することが明らかであり、そうであれば、その反作用力も「対角線方向」に作用することは、作用反作用の法則から自明の理といわなければならない。したがって、「反力」すなわち反作用力が対角線方向ではなく、周辺に垂直な方向に作用するというのは、作用反作用の法則に反するものである。

また、コンテナ重量が鉛直方向に作用しているから、その反力が孔部の周辺に垂直な方向として、水平方向の分力を有することは、合力ベクトルよりも大きな力を考えない限りありえないが、合力ベクトルであるコンテナ重量よりも大きな力を考えることは理に合わない。

したがって、審決の上記説示は誤りである。

なお、引用例2には「隅金具2の孔部3の周辺が頭部17の周辺に当つて頭部17をバネ23の力に抗して回転させ」と記載されているものの、回転する理由の記載はなく、偶力によって回転するものでないことは上記のとおりである。

(2)  容易推考性の判断の誤り

審決は、上記のとおり、引用例2の技術事項を誤認し、これを前提に、「甲第2号証には、本件特許発明と同様の技術的課題を解決するための発明、即ち、連結装置を自動式とするための発明として、『(端部に係合部を連結し、回動自在に軸支された)軸杆をバネ手段を介して係合部がコンテナの係合孔と係合する方向に付勢し、さらに、該係合部は、コンテナの係合孔の孔縁にガイドされてバネ手段の付勢力に抗して没入方向に回転させる形状に形成することによって、前記係合部がコンテナの係合孔と交差する位置で押圧された際、該係合部に作用する偶力によりバネ手段の付勢力に抗して該係合部を回動させ、係合孔に完全に挿入するとバネ手段により係合孔と係合する位置に復帰するように構成した』技術手段が記載されているといえる。そして、この技術手段は、上記相違点とした本件特許発明が具備する自動化のための技術手段に他ならない。したがって、・・・甲第1号証記載の発明に、コンテナ連結装置という共通する技術分野に属する甲第2号証記載の発明を適用することは、当業者が、容易に想到し得たことである。」(同18頁3行~19頁5行)と判断したのであるから、この判断が誤りであることは明らかである。

第3  被告は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日及び準備手続期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

第4  当裁判所の判断

特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び審決の理由が原告主張のとおりであることは、被告において明らかに争わないところであり、これによれば、被告は、本件において、前示の内容をもつ審決という行政処分が原告主張のとおりになされたことは自白したものとみなされる。

そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1  原告の主張(1)について

原告主張の前示引用例2の記載(甲第5号証4欄8~19行)に照らすと、そこに記載されているコンテナ結合装置においては、截頭ピラミッド状の頭部17がコンテナ1の隅金具2に設けられた孔部3に対し偏位している状態にあるときに、コンテナ1がフレーム4上に載ることによって、頭部17の対向する2本の斜めの稜線に、孔部3の対向する2本の周辺の辺縁が同時にそれぞれ1点で当たることになるものと認められる。

そして、隅金具2に設けられた孔部3の周辺の辺縁は剛体によって成っているものと認められるから、摩擦を考慮しないものとすれば、孔部3の対向する2本の周辺の辺縁が頭部17の対向する2本の稜線に同時にそれぞれ1点で当たったとき、それぞれの接触点を含みかつ孔部3の周辺に垂直な2つの面内において、ともにコンテナ重量に係る重力の反作用力(頭部17がコンテナ1を支える力)が、各接触点を作用点として、それぞれの稜線に垂直な斜め上向きの各分力となって孔部3の周辺に作用し、さらにその各反作用力が、各接触点を作用点として、それぞれの稜線に垂直な斜め下向きの力として各稜線に作用することは、物理法則上明らかなことである。

そうすると、孔部3の周辺の辺縁と接触する頭部17の対向する2本の稜線の向きが当該周辺と垂直となるように頭部17が偏位している特殊な場合を除き、該各反作用力の水平成分は、各接触点を含み孔部3の周辺に垂直なそれぞれの面内において、向きが反対で大きさの等しい平行な力として作用することになるから、頭部17をバネ23の力に抗して回転させる偶力になるものということができる。

原告は、コンテナ重量が鉛直方向に作用し、かつ頭部17がその稜線でコンテナ1の孔部3の周辺(長辺)に接することから、「長辺に対して該孔部を押し広げようとする力」は稜線と孔部周辺との2つの接触点を含む垂直面内(すなわち、截頭ピラミッドの下面を形成する矩形の対角線方向)で作用しており、その反作用力も「対角線方向」に作用すると主張する。

しかし、前示のとおり摩擦を考慮しないものとすれば、孔部3の対向する2本の周辺の辺縁が頭部17の対向する2本の稜線に同時にそれぞれ1点で当たったとき、各接触点において頭部の稜線から周辺の辺縁に作用する力の方向は、稜線及び周辺の辺縁に対しいずれも垂直な方向となるものであるから、周辺に対する孔部を押し広げようとする力が、周辺に対し垂直とはならない「対角線方向」に作用するとすることは誤りである。のみならず、仮に原告主張のように孔部を押し広げようとする力が孔部の周辺に対し斜めの方向である「稜線と孔部長辺との二つの接触点を含む垂直面内」で働くものと想定したとしても、摩擦を考慮しないとすれば、力の作用反作用の相互作用は接触部に垂直な方向においてのみ生ずるものであるから、頭部17に対する反作用力が、孔部3の周辺に対し垂直とはならない「対角線方向」に作用するとすることは、やはり誤りであるといわざるをえない。したがって、原告の主張はいずれにしても採用しがたい。

また、稜線に垂直な斜め下向きの力として各稜線に作用する前示の反作用力のベクトルは、その合力ベクトルであるコンテナ重量に係る重力(各接触点にかかる重力の合計重力)よりも大きくなることもあると考えられるところ、原告は、合力ベクトルであるコンテナ重量よりも大きな力を考えることは理に合わないと主張する。しかし、一般に、力の合成において、その対象となる各ベクトルがその合力ベクトルよりも大きくなること、あるいは力の分解において、各分力ベクトルが、もとの力のベクトルよりも大きくなることがないとはいえず、重力ベクトルにおいて、そのようになったからといって格別不合理ということはできない。

したがって、審決の引用例2記載の発明についての認定に原告主張の技術事項の誤認があるということはできない。

2  原告の主張(2)について

審決の引用例2記載の発明についての認定に原告主張の技術事項の誤認があるといえないことは上記のとおりであり、そうすると、その誤認があることを前提として、審決の本件発明についての容易推考性の判断が誤りであるとする原告の主張が理由がないことは明らかである。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第2417号

審決

広島県福山市鞆町後地26の122

請求人 光栄金属工業 株式会社

東京都港区西新橋2丁目8番4号 寺尾ビル 野本国際特許事務所

代理人弁理士 野本陽一

兵庫県神戸市兵庫区材木町3番1号

被請求人 株式会社 三和

大阪府大阪市北区西天満4丁目4番18号 梅ケ枝中央ビル あ-く特許事務所

代理人弁理士 倉内義朗

上記当事者間の特許第1835240号発明「コンテナ連結装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する.

結論

特許第1835240号発明の特許を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

Ι. 手続の経緯

本件第1835240号特許[以下、「本件特許」という]は、昭和59年10月20日の特許出願である特願昭59-221090号から、当該特許出願に対してなされた特許異議申立に係る補正期間内である平成1年11月17日に適法に分割された特許出願(特願平1-300037号)について、平成5年7月2日に出願公告され(特公平5-43596号)、平成6年4月11日に登録されたものである。

Ⅱ. 本件特許発明の要旨

本件特許発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりの「相対する位置に係合孔をそれぞれ有する上側コンテナと下側コンテナとを連結するコンテナ連結装置であって、このコンテナ連結装置は、コンテナの係合孔に嵌合可能な嵌合部を備え、この嵌合部を貫通した貫通孔が設けられた連結装置本体と、該連結装置本体の貫通孔に回動自在に軸支され、両端部が貫通孔の外側に突出された軸杆と、この軸杆の突出端部に該軸杆と一体的に回転するように連結され、コンテナの係合孔に対応した平面形状を有するとともに、互いに交差して設けられた上側係合部および下側係合部からなり、前記軸杆はバネ手段を介して下側係合部が下側コンテナの係合孔と係合する方向に付勢され、さらに、下側係合部は、下側コンテナの係合孔の孔縁にガイドされてバネ手段の付勢力に抗して没入方向に回転させる形状に形成され、上側係合部を上側コンテナの係合孔に係合した状態で下側係合部が下側コンテナの係合孔と交差する位置で押圧された際、下側係合部に作用する偶力によりバネ手段の付勢力に抗して下側係合部を回動させ、係合孔に完全に挿入するとバネ手段により係合孔と係合する位置に復帰するように構成したことを特徴とするコンテナ連結装置。」にあるものと認める。

Ⅲ. 請求人の主張

これに対して、請求人は、証拠方法として特開昭47-30013号公報[以下、「甲第1号証」という]、実公昭46-35764号公報[以下、「甲第2号証」という]及び、日本工業規格国際大形コンテナのすみ金具(財団法人日本規格協会昭和47年3月31日発行)[以下、「甲第3号証」という]を提出し、各甲号証には以下の事項が記載されているとしたうえで、本件特許発明は、各甲号証記載の発明に基づいて、当業者が、容易に発明することができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法123条第1項第1号に規定する特許に該当し、無効とされるべきものである旨主張している。

(甲第1号証の記載内容)

相対する位置に係合孔をそれぞれ有する上側コンテナと下側コンテナとを連結するコンテナ連結装置であって、このコンテナ連結装置は、コンテナの係合孔に嵌合可能な嵌合部を備え、この嵌合部を貫通した貫通孔が設けられた連結装置本体と、該連結装置本体の貫通孔に回動自在に軸支され、両端部が貫通孔の外側に突出された軸杆と、この軸杆の突出端部に該軸杆と一体的に回転するように連結され、コンテナの係合孔に対応した平面形状を有するとともに、互いに交差して設けられた上側係合部および下側係合部からなり、上側係合部を上側コンテナの係合孔に係合した状態で手動で下側係合部を回動させて下側嵌合部と整列させ、下側係合部を下側係合孔に完全に挿入して下側嵌合部を下側コンテナの係合孔に嵌合させた後、手動により下側係合部を係合孔と係合する位置に回動させ両コンテナを連結するコンテナ連結装置。

(甲第2号証の記載内容)

車輌フレーム上にコンテナを結合する連結装置において、「従来より、鎖錠機構として手動式と自動式が存在する」点、および、自動式の例としての「回動自在な錠16の頭部17が、コンテナ1の孔部3と係合する方向に、錠16の頭部17下端軸部に取り付けられた操作杆18の一端22に取り付けたバネ23により付勢されると共に、頭部17はコンテナ1の孔部3の周縁にガイドされてバネ23の付勢力に抗して没入方向に回転させるために截頭ピラミッド状に形成され、頭部17がコンテナ1の孔部3と交差する位置で押圧された際、頭部17に作用する偶力によりバネ23の付勢力に抗して頭部17を回動させ、孔部3に完全に挿入するとバネ23により孔部3と係合する位置に復帰するように構成した連結装置」。

(甲第3号証の記載内容)

自動車の床面にコンテナを連結することと、船の床面にコンテナを連結することと、上下に積層したコンテナ同士を連結することとが並べて記載されている点。

Ⅳ. 被請求人の主張

一方、被請求人は、以下(1)~(4)のとおりであるから請求人の主張は理由がなく、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない旨主張している。

(1)甲第1号証記載の発明は、本件特許発明の従来例に相当するものであり、「下側係合部をコンテナの係合孔と相重なる位置に予め回動させなければならず、作業が煩雑となる。しかも、この相重なる位置への操作が不完全のまま係合部をコンテナの係合孔に押圧させると、係合部は係合孔と係合状態で接触することとなり、コンテナの係合孔に挿入できない」という、本件特許発明が解決しようとする課題を依然として有している。

(2)甲第2号証記載の発明における頭部17形状である截頭ピラミッド形状を用いた場合には、コンテナを載せた際に偶力を発生することができず、頭部を自動回転させることはできない。

(3)甲第2号証記載の発明におけるバネ23は、その一端が操作杆18に、その他端がフレーム4にそれぞれ連結されている。したがって、本件特許発明のコンテナ連結装置のように、上下のコンテナを連結する単体として完結されたものではなく、フレームという他の部材を介在させる必要がある。

(4)甲第3号証の日本工業規格は、コンテナの隅金具に関するものであって、コンテナ連結装置に関するものではなく、さらに、一つの輸送形態に用いられるコンテナ連結装置の構造は、他の輸送形態に用いられるコンテナ連結装置の構造にそのまま転用できない。

Ⅴ. 証拠方法記載事実についての当審の認定

(甲第1号証の記載事実)

甲第1号証には、本件特許発明の前提条件となる「相対する位置に係合孔をそれぞれ有する上側コンテナと下側コンテナとを連結するコンテナ連結装置であって、このコンテナ連結装置は、コンテナの係合孔に嵌合可能な嵌合部を備え、この嵌合部を貫逼した貫通孔が設けられた連結装置本体と、該連結装置本体の貫通孔に回動自在に軸支され、両端部が貫通孔の外側に突出された軸杆と、この軸杆の突出端部に該軸杆と一体的に回転するように連結され、コンテナの係合孔に対応した平面形状を有するとともに、互いに交差して設けられた上側係合部および下側係合部からなり、上側係合部を上側コンテナの係合孔に係合した状態で手動で下側係合部を回動させて下側嵌合部と整列させ、下側係合部を下側係合孔に完全に挿入して下側嵌合部を下側コンテナの係合孔に嵌合させた後、手動により下側係合部を係合孔と係合する位置に回動させ両コンテナを連結するコンテナ連結装置」という発明[以下、「甲第1号証記載の発明」という]が記載されている。

(甲第2号証の記載事実)

甲第2号証には、第4図並びに「第4図は・・・鎖錠状態となる。」(甲第2号証第4欄第6行目~第19行目)の記載からみて、車輌フレーム上に設けるコンテナ結合装置[以下、単に「コンテナ結合装置」という]を自動式とした例として、「回動自在な錠16の頭部17が、コンテナ1の孔部3と係合する方向に、錠16の頭部17下端軸部に相対回転不能に一体的に取り付けられた操作杆18の一端22に取り付けたバネ23により付勢されると共に、頭部17はコンテナ1の孔部3の周辺に当つてバネ23の付勢力に抗して没入方向に回転させるために截頭ピラミッド状に形成され、頭部17が上方から載置されるコンテナ1の孔部3と交差する位置で押圧された際、截頭ピラミッド状に形成された頭部17がバネ23の付勢力に抗して回動され、孔部3に完全に挿入するとバネ23により孔部3と係合する位置に復帰するように構成した自動式コンテナ結合装置」が記載されている。

そこで、甲第2号証記載の自動式コンテナ結合装置における截頭ピラミッド状に形成された頭部17がコンテナ1の孔部3と交差する位置で押圧された際、該頭部17がコンテナ1の孔部3の周辺に当たることによって、該頭部17にどのような力が作用するかを検討するに、前記頭部17がコンテナ1の孔部3と交差する位置で押圧されるならば、該頭部17はその稜線(截頭ピラミッドの上下面となる矩形の対応角部を結んで形成される側部線分)でコンテナ1の孔部2の長辺に接して、該長辺に対して該孔部を押し広げようとする力を及ぼし、この結果、前記押し広げようとする力の反作用として孔部長辺から該長辺に垂直な方向の反力が上記接点を着力点として作用することは明らかである。そして、該反力は前記長辺に垂直な方向の力であって、截頭ピラミッドの下面を形成する矩形の対角線方向の力ではない(前記対角線がコンテナ1の孔部長辺に直角に位置する状態で頭部17がコンテナ1の孔部3と交差する場合のみ、前記長辺に垂直な方向と前記対角線方向が一致するが、常識的には、このような特異な状態でコンテナが載置されるとは考えられない)から、前記反力は頭部中心に対し偶力を発生させる力であることも明らかである。

また、甲第2号証には、コンテナ結合装置の従来技術に関して、「錠を鎖錠するための頭部の回転を手動によって行なう手動式と頭部を弾支機構によって常に鎖錠状態にしておいてコンテナがのるとコンテナの重量によって頭部が自動的に回転して鎖錠する自動式とがある。」(甲第2号証第1欄第37行目~第2欄第2行目)、「自動式においては作業員がいちいち結合して回らなくてもよいし、」(第2欄第14行目~第15行目)と記載されている。

そして、甲第2号証に記載された手動式の従来技術の場合における「作業員の行うべき結合作業」の内には、甲第2号証記載の手動式実施例において作業員が行う結合作業である「コンテナ1をフレーム4上に載置する場合には操作杆18によって錠16の頭部17の向きをコンテナ1の孔部3の向きと一致させる・・・頭部17がコンテナ1の孔部3の中に入り操作杆18を回すと」(甲第2号証第3欄第27行目~第36行目)と同様の操作が含まれることは明らかであるから、自動式コンテナ結合装置を用いるならば、手動式コンテナ連結装置において不可欠であった上記作業が不要となるという効果を有することは、当業者に、従来より広く認識されていた技術的事項であり、逆に、該効果を得るために上記形式の自動式コンテナ結合装置が開発されたということができる。

以上のとおりであるから、甲第2号証には、手動式コンテナ結合装置において不可欠であった作業員による結合作業を不要とするための装置である、自動式コンテナ結合装置に関する発明として、「回動自在な錠16の頭部17が、コンテナ1の孔部3と係合する方向に、錠16の頭部17下端軸部に相対回転不能に一体的に取り付けられた操作杆18の一端22に取り付けたバネ23により付勢されると共に、頭部17はコンテナ1の孔部3の周縁にガイドされてバネ23の付勢力に抗して没入方向に回転させるために截頭ピラミッド状に形成され、頭部17が上方から載置されるコンテナ1の孔部3と交差する位置で押圧された際、頭部17に作用する偶力によりバネ23の付勢力に抗して頭部17を回動させ、孔部3に完全に挿入するとバネ23により孔部3と係合する位置に復帰するように構成した自動コンテナ結合装置」が記載されている。

(甲第3号証の記載事実)

甲第3号証には、第9頁における自動車への緊締の記載、第10頁における船の甲板上および舟倉への積付の記載からも明らかなように、種々の輸送形態に適用でき、かつ、上下に積層したコンテナの連結にも適用できる共通規格としてのコンテナのすみ金具及び種々のコンテナ連結装置が記載されている。

Ⅵ. 当審の判断

6-1. 対比

証拠方法記載事実についての上記認定に基づいて、本件特許発明と甲第1号証記載の発明を比較すると、両者は、「相対する位置に係合孔をそれぞれ有する上側コンテナと下側コンテナとを連結するコンテナ連結装置であって、このコンテナ連結装置は、コンテナの係合孔に嵌合可能な嵌合部を備え、この嵌合部を貫通した貫通孔が設けられた連結装置本体と、該連結装置本体の貫通孔に回動自在に軸支され、両端部が貫通孔の外側に突出された軸杆と、この軸杆の突出端部に該軸杆と一体的に回転するように連結され、コンテナの係合孔に対応した平面形状を有するとともに、互いに交差して設けられた上側係合部および下側係合部からなるコンテナ連結装置」において一致し、以下の点において相違しているものと認める。

(相違点)

上下コンテナを連結する際に、甲1号証記載の発明において必要となる「上側係合部を上側コンテナの係合孔に係合した状態で手動で下側係合部を回動させて下側嵌合部と整列させ、下側係合部を下側係合孔に完全に挿入して下側嵌合部を下側コンテナの係合孔に嵌合させた後、手動により下側係合部を係合孔と係合する位置に回動させる」という作業員による手動動作を不要とするため、本件特許発明においては、「(上側係合部および下側係合部を両端部に連結し本体の貫通孔に回動自在に軸支された)軸杆はバネ手段を介して下側係合部が下側コンテナの係合孔と係合する方向に付勢され、さらに、下側係合部は、下側コンテナの係合孔の孔縁にガイドされてバネ手段の付勢力に抗して没入方向に回転させる形状に形成され、上側係合部を上側コンテナの係合孔に係合した状態で下側係合部が下側コンテナの係合孔と交差する位置で押圧された際、下側係合部に作用する偶力によりバネ手段の付勢力に抗して下側係合部を回動させ、係合孔に完全に挿入するとバネ手段により係合孔と係合する位置に復帰するように構成した」点。

6-2. 相違点の検討

次いで、上記相違点につき検討する。

本件特許発明が、相違点の構成を具備することによって解決しようとする課題である「手動式コンテナ連結装置において不可欠であった作業員による結合作業を不要とすること」は、コンテナ連結装置が、コンテナ同士を上下に連結させるコンテナ連結装置であるか、コンテナを車輌フレームに連結させるコンテナ連結装置であるかに拘わらず、共通する技術課題である。

一方、甲第2号証には、コンテナを車輌フレームに連結させるコンテナ連結装置としてではあるが、前記課題を解決する自動式コンテナ連結装置の具体例として、「回動自在な錠16の頭部17が、コンテナ1の孔部3と係合する方向に、錠16の頭部17下端軸部に相対回転不能に一体的に取り付けられた操作杆18の一端22に取り付けたバネ23により付勢されると共に、頭部17はコンテナ1の孔部3の周縁にガイドされてバネ23の付勢力に抗して没入方向に回転させるために截頭ピラミッド状に形成され、頭部17が上方から載置されるコンテナ1の孔部3と交差する位置で押圧された際、頭部17に作用する偶力によりバネ23の付勢力に抗して頭部17を回動させ、孔部3に完全に挿入するとバネ23により孔部3と係合する位置に復帰するように構成した自動コンテナ結合装置」が記載されている。

そして、甲第2号証に具体的に記載された自動式コンテナ連結装置は、車輌フレームに一体に設けられ、上方より載置されるコンテナを結合するコンテナ連結装置であるが故に、頭部は単数であり、かつ、連結されるべきコンテナは上方より載置されるものではあるが、「コンテナ1の孔部3」、「頭部」、「頭部17下端軸部」は、本件特許発明の「コンテナの係合孔」、「係合部」、「軸杆」に相当し、甲第2号証における「バネ23が取り付けられた操作杆18」は「頭部17下端軸部に相対回転不能に一体的に取り付けられたもの」であるから、実質的に、「頭部17下端軸部(本件特許発明における軸杆に相当する部材)」が、バネによって付勢されているものと認められる。

よって、甲第2号証には、本件特許発明と同様の技術的課題を解決するための発明、即ち、連結装置を自動式とするための発明として、「(端部に係合部を連結し、回動自在に軸支された)軸杆をバネ手段を介して係合部がコンテナの係合孔と係合する方向に付勢し、さらに、該係合部は、コンテナの係合孔の孔縁にガイドされてバネ手段の付勢力に抗して没入方向に回転させる形状に形成することによって、前記係合部がコンテナの係合孔と交差する位置で押圧された際、該係合部に作用する偶力によりバネ手段の付勢力に抗して該係合部を回動させ、係合孔に完全に挿入するとバネ手段により係合孔と係合する位置に復帰するように構成した」技術手段が記載されているといえる。そして、この技術手段は、上記相違点とした本件特許発明が具備する自動化のための技術手段に他ならない。

したがって、手動式コンテナ連結装置において不可欠であった作業員による結合作業を不要とし、これを自動式とするために、甲第1号証記載の発明に、コンテナ連結装置という共通する技術分野に属する甲第2号証記載の発明を適用することは、当業者が、容易に想到し得たことである。

また、本件特許発明が、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用するについて、特別な工夫を講じたものとも認められない。

それ故、上記相違点は、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を単に適用したというに相当する。

なお、被請求人は、甲第2号証記載の発明はバネ23の他端を固定するにフレームという他の部材を介在させる必要があることを理由[前述の被請求人の主張(3)]として、甲第2号証記載の発明である連結装置を自動式とするための技術手段を甲第1号証記載の発明に適用することは容易ではない旨主張しているが、甲第1号証記載の発明のように単体で用いられるコンテナ連結装置においては、バネ他端の固定位置は本体以外に求めようがなく、本件特許発明においてバネ他端の固着位置を本体内となした点[この点は、特許請求の範囲の記載のみからは明らかではないが、本件特許発明が上下のコンテナを連結する単体として完結されたコンテナ連結装置であることから自明の事項である]は、甲第2号証記載の技術手段を甲第1号証記載の発明に適用するに際し、当業者が、当然行うべき単なる設計的事項に過ぎない。

以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証記載の発明に基づいて、本件出願の出願前に、当業者が、容易に発明することができたものと言わざるをえない。

Ⅶ. 結び

したがって、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、本件特許は、特許法第123条第1項第1号に規定する特許に該当する。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年3月12日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例